■錬金術におけるシンボルについて

錬金術においては元素や実験器具、混合物などが専門家にしかわからぬよう記号で表される。
以下はそのリスト。


H2O。常温で液体。 融点0度・沸点100度。
人体のうち約70%は水分であり、不足すると血液中の塩分濃度が上昇し、いわゆる脱水症状を起こす。
ギリシャ七賢人の一人タレスは「万物の根源は水」であるといった。 海は全ての生命の母である。


発熱と発光を伴う強烈な酸化現象。
酸素と酸化物がない場所に火は起きない。
タレスに対しヘラクレイトスは万物の根源は火であり、万物は流転するといった。 火は破壊ともに変化の象徴である。


空気

地球の大気組成は約8割が窒素 N2、約2割が酸素 O2、その他アルゴン、二酸化炭素、H2O(気体) などの微量物質。
大気は重力によって地表にひきつけられており、電離層以下を大気圏と定義する者もある。
電離層とは太陽光線やX線などにより大気の構成分子が電離している層のこと。
空が青いのは太陽光が大気によって拡散・散乱され、スペクトルの短い部分である青が表出するため。


地殻の表層部を構成する鉱物粒子そのほかからなる比較的結合力の弱い部分の集合物。粘土、砂、礫、風化岩、有機質土などを含む。
岩石が酸化、炭酸化、加水作用を受けたもの。 結合力の強い岩石の対義語。
植物の根を乾燥から守り、育てる。草食動物はこれを食らい、肉食動物は草食動物を食らって、いずれ土に還る。


時間

1秒 = セシウム133 (Cs133)原子の基底状態の二つの超微細構造間の遷移における放射の9,192,631,770周期の継続時間。
以上は1967年に第13回国際度量衡総会において定義された時間の基準であり、それ以前は天文観測をもとにしていた。
誰もが時間とは何かを知っているが、時間とは何かと聞かれると、それを正確に説明することができない。全て相対的な説明になってしまう。


るつぼ

同時に試練の象徴でもある。
ガラスを溶かす為に用いる、陶器または磁器製の容器のこと。
珪砂などのガラス原料を入れ、溶融する。加熱に耐える丈夫な土や石で作られる。


ガラス

一般的なガラスであるシリカガラスは珪砂 (砂状の石英)SiO2が主成分。他にソーダ灰Na2CO3、石灰CaCO3が主な原料。
語源は蘭語のGlas。日本語では瑠璃、あるいは玻璃。ビードロ、ギヤマンとも。
ガラスとはそもそもアモルファス金属を示す言葉である。(液体の分子構造のまま過冷却により分子活動が極端に低下している状態の金属)
ガラスは湿気や薬品に犯されにくく、実験器具の材料となることが多い。沸点は500 〜 1000℃。


蒸留器

蒸留とは成分の揮発度の差を利用する分離プロセスのこと。それを行うための器具。
液体を熱して気体に変え、再び液体に戻すことで、沸点の差を利用して混合物を分離できる。
その他に融点の差を利用する再結晶などの方法がある。


物質を細かく砕いて肉眼で粒子が見えないほどになった状態。
粉体から不純物を除去し、捏ね、固め、焼き付けて形を作る。


アルコール

一般的な化学式はCnH2n+1OH。水酸基に結合している炭素数で等級の区別がある。
酸化すると第一級アルコールはアルデヒドに、第二級アルコールはケトンとなる。
試薬、溶媒、燃料として広く使われる。


アンチモニー

鉛Pb とアンチモンSb の合金。 錫 Snを添加する場合も。 鉛70% アンチモン30%の比率。
独特の重量感を持ち、メダルやカップの材料となる。
溶解温度360℃で鋳造加工に適するがもろいという欠点もある。


砒素

元素記号As。 砒素の代名詞である亜ヒ酸は三酸化砒素、あるいは無水亜ヒ酸の俗称。無味無臭の白色粉末。
5〜50mgで中毒症状を起こし、致死量は5〜7mg/kg。体内の蛋白質と結合し、そのような酵素を阻害する。中毒時の症状は嘔吐、下痢など。
毒薬としては古来より有名で、無味無臭であることから「賢者の毒」とも言われたが確実な検出法が発見されてからは「愚者の毒」と言われている。
自然に存在しており、水道水を一生のみ続けた場合それが原因で癌になる可能性が6/10000人という確率で管理されている。


コバルト

元素記号Co。 強磁性元素のひとつ。鉄と同属で、色、展性などは鉄に似ているがより硬い。常温で水や空気により腐食されにくい点も異なる。
コバルトというと深い青であるコバルトブルーを思い出しがちだが、金属のコバルトは鉄などと同様銀白色。
この既成概念はコバルトの酸化物が濃青色で、古来よりガラスや陶磁器の顔料として使われたため。


元素記号Cu。 天然でも高純度で見つかり、加工も容易で腐食しにくいため古来より様々に用いられた。イオン化傾向も小さく安定。
伝導性がよく、低温にも強い。非磁性体でもあり、延性で金に劣るもののかなりオールマイティな金属である。
しかしながら加工しやすい一方で柔らか過ぎるという一面もあり、工具などには向かない。そこで様々な合金が考え出される。
最もポピュラーなものが+錫Sn の青銅(ブロンズ)。 +亜鉛Zn で真鍮、別名黄銅。 ニッケルとの合金は白銅と呼ばれる。


元素記号Au。 延性が全金属中で最大。イオン化傾向は最小で安定、化合物はほとんどない。 比重は19.3。沸点は2660℃。
例外として銀や銅とは合金になりやすく自然界ではそのように発掘される。金が金色なのは青色の波長のみ吸収し、他を反射するため。
イオン化しにくい安定度が普遍性の象徴となり、価値の普遍を連想させるため硬貨や装飾品などに古くから使われている。


元素記号Fe。埋蔵量はアルミニウムについで4位。非常に酸化しやすく、比較的やわらかい。一番の欠点は錆びやすいこと。
赤鉄鉱Fe2O3や磁鉄鉱Fe3O4などを石炭やコークスで直接還元、あるいは水素などで間接還元し、石灰で不純物を除いて精錬する。
炭素の含有量が0.02%〜2.0%のものを鋼という。鉄は炭素の含有量によって大きく変質する。
また珪素Si、クロムCr、マンガンMgなどを添加することで更に強度が増す。


元素記号Pb。 非常にやわらかく、また重い。 青白色の金属。 融点は327.5℃。 比重は約11。
生物が鉛を体内に取り込むと中毒症状を起こすが、鉛が水道管として使用可能なのは水中・空中で皮膜を作り、この皮膜が不溶性のため。
最大の使用用途は鉛蓄電池。音波や放射線をよく吸収するため防音材や放射線防護材としても使われる。
放射性物質は原子核が不安定なため放射線を放出してより安定的な元素に変質(崩壊)するが、その行き着く先は鉛である。


水銀

元素記号Hg。 常温で唯一液体の金属。融点は-38.86℃。沸点は356.72℃。固体でも液体でも銀白色。
鉱石は辰砂と呼ばれる。化学式HgS。一定比率で温度上昇とともに膨張するので体温計、温度計、圧力計などに古くから使われた。
強烈な毒性を持ち、人体に有害。単体でも化合物でも人体に影響を与えるため、取り扱いには注意が必要。
水銀と他の金属の合金をアマルガムといい、これを塗布、加熱し水銀だけを気化させて鍍金する方法があるが、非常に有害。


ニッケル

元素記号Ni。 鉄と同属で性質も似通っている。鉄と銅の中間的性質を持つ。名前の由来は坑夫に伝わる悪魔 Old Nick。
ニッケル約75% + クロム15% の合金であるニクロム線は電熱線に使用される。
ニッケルを陽極、カドミウムを陰極にしたニッカド電池は高値ではあるものの寿命は長く使いやすい。
また水素吸蔵合金としても用いられる。


白金

いわゆるプラチナ。元素記号Pt。高温でも酸化されず王水以外の酸とは反応しない。柔らかく展性も高い。融点1774℃。沸点4300℃。
高価であるため使用方法としては装飾品が多いが酸化還元の触媒としても用いられる。
耐食性耐熱性が高いのでるつぼなどに使われることもあるし、光学レンズになる場合もある。
合金としては、鉄やコバルトとを添加したものが永久磁石としてきわめて優れた性質を持つ。


元素記号Ag。金についで延性が高い。融点は961.9℃。金やイリジウムなどの貴金属の中で最も融点が低く質量も小さい。比重は10.5。
熱伝導性・電導性は全金属中最も高い。
原因はまだよくわかっていないが銀にはバクテリアなどに対する強い殺菌作用があるため昔から飲料水の腐敗防止などに用いられた。
そのためか、魔法で清めた銀をミスリルといったり、聖書では金より貴重で聖なる金属であるといわれたりする。


硫黄

元素記号S。 常温では無毒。 高温で分子結合が切れて活性化する。 沸点444.6℃。 硫黄やその化合物は腐乱臭や刺激臭を発する。
1000℃を超えると金以外の多くの金属と反応し、重金属をも激しく腐食する。また硫黄の燃焼ガスや硫化水素は人体にきわめて有毒。酸化すると硫酸。
ソドムとゴモラの滅亡のとき天から降ってきたとされる。燃える硫黄は町々を焼き尽くし現在死海の底にあるという。


元素記号Sn。 青みがかった銀白色の金属。柔らかく加工しやすいが強度もない。 融点231.9℃。 沸点2270℃。 無害で耐食性に優れる。
13.2℃を変態点といい、性質が変化する。それ以下では灰色でぼろぼろになりやすく、それ以上では銀白色で延性も高い。
前者を灰色スズといい比重は5.8。後者を白色スズといい比重は7.28。白色スズを曲げると音がでるが、これを鈴なりと言う。
青銅の合金元素。鍍金や合金の添加元素としても使われる。その典型的な用途がブリキやハンダである。前者は亜鉛との、後者は鉛との合金。


亜鉛

元素記号Zn。 湿った空気中では酸化して光沢が失われる。この性質が鉛によく似ているため『亜鉛』というようだ。融点419.6℃。沸点907℃。
亜鉛化合物を還元するための温度は1000℃以上で、先に亜鉛そのものが揮発してしまうため熱分離はできない。
銅との合金、真鍮は銅と溶融すれば作れるので歴史は古い。亜鉛板は安価で加工しやすく表面に皮膜を作るためさびない。


硼砂

四ホウ酸ナトリウムの結晶。化学式 Na2B4O7・10H2O。
塩湖の蒸発残留物中に産する。
ホウ素化合物の原料となり、ガラス・セラミックス・防腐剤・洗浄剤などに用いられる。ボラックス。


明礬

アルミニウム(またはクロム・鉄など三価金属)の硫酸塩と、カリウム(またはアンモニウム・ナトリウムなど一価陽イオン)の硫酸塩との複塩の総称。
化学式 AlK(SO42・12H2O 含まれる金属によって、カリウムミョウバン(単にミョウバンという)・クロムミョウバン・鉄ミョウバンなどがある。
みょうばん石は1782年からアルミニウムの原料と目されていたが当時は分離できず、1807年、イギリスのデービィが電気分解で単体を取り出した。
フランス皇帝ナポレオンは騎兵隊に軽くて強いアルミニウムの武具を装備させたいと願って世界初のアルミニウム工場をバックアップしたといわれる。


生石灰

化学式CaOが主成分。酸化カルシウムの総称。セイセッカイ・キセッカイと読む。水と反応して脱水し、高熱を発する。
食品の乾燥剤として用いたり、鉄や鋼を作るときに不純物と反応してスラグを作ったりするのに使う。
酸化カルシウムは皮膚、粘膜に付着すると水酸化カルシウムとなり局所の粘膜腐食作用、潰瘍を起こす。
そのため服薬すると口内や消化管粘膜に付着して刺激糜爛、出血を起こす。致死量は10g。


粘土

「適量の水を含んでいるときに粘性と可塑性を示す微粒の天燃物」と定義される。
普通その大部分は結晶性珪酸塩が占めている。これは三角錐方の酸素原子4つに珪素原子1つが入り込んでできる四面体が平たく層を作ったもの。
陶器・陶磁器は粘土を捏ね、塑像し、加熱して硬化させたもの。


インク

顔料・染料を含んだ液体。文字を書いたり表面に色付けするために用いられる。油性、水性、ジェルなど。
印刷に用いるものを区別してインキということが多い。
墨もインクの一種である。


動物や植物、鉱物などから抽出できる水に不溶性で可燃性の物質。液体のものを油、固体のものを脂と区別する。
食用、燃料用、潤滑油、産業用など用途としては多岐にわたっている。
例としては植物性のものはひまし油・胡麻油・菜種油など、動物性のものはラードや魚油、鉱物性のものはガソリンや灯油・重油などの石油。
糖質・蛋白質とともに人体には不可欠な栄養素。


「しお」ではなく「えん」。酸塩基反応で生成される。
アレニウスの定義では酸は水と反応しH+をつくり、対して塩基はOH-を生じる。
日常ではアルカリ性と塩基性は混同されるが、アルカリ性とは物質の性質、塩基性とは酸との相互作用を指す。


アルカリ塩

塩の中でもpHの結果が7より高いもの。
物質を水に溶かすと酸性物質でもアルカリ性物質でも必ず電離しH+を含むが、その濃さで酸性・中性・アルカリ性を測る。pHとはその基準。


食塩

塩化ナトリウム。 化学式NaCl。融点は801℃。沸点は1485℃。
食品に塩味の味覚をつける。


硝石

硝酸カリウムのこと。 化学式KNO3。水溶性。
黒色火薬の材料となる。
カリウムの炭酸塩または水酸化物に硝酸を作用させると得られる。 結 晶は無色透明。


岩石や珊瑚、貝殻などが細かく砕けて粒子になったもの。
特に粒子が小さいものを泥、大きいものを礫という。


石鹸

油脂から作られる洗剤。
油脂がアルカリの作用でグリセリンと石鹸になる反応を鹸化反応という。


尿

腎臓で作られる液体老廃物。
ほぼ水分で尿素他、塩素などの微量物質を含む。
中世、錬金術師は小児の尿に栄養や香料を加えて人工的な子供、ホムンクルスを作ろうと試みた。


酢酸

化学式CH3COOH。 いわゆる酢の主成分。 カルボン酸の一種。 融点17度。 無色。 腐食性を持つ。
古代では顔料を製造する上で重要な役割を果たした。 (白鉛やビリジリスなど。)

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